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流木のように

2019. . 13
 男は、荒涼とした冬の海辺を歩いていた。
 ときに波打ち際にまで駆け寄っては、熱心に何かを拾っている。

「何をなさっていたんですか?」我々スタッフは男へと質問を投げかける。

 だが、男の口から発せられる言葉は、あまりに歯切れが悪い。

「いや、何か見つかればと……」

 こんな冬の海岸に一体何があるというのか。ふと男の手元を見ると、彼が拾ってきたであろう木材の破片らしきものが見受けられる。

 流木。

 長年波にさらわれて風化した木材だ。
 表面はパサパサして、今にも崩れてしまいそうだ。

 見る者によっては只のゴミでしかないが、しばしばこの流木を使ってDIY作品などを作る人がいることはよく知られている。彼もその一人なのだろうか。

 男は仕事場へとそれを持ち込み、おもむろに磨き始める。

IMG_5716.jpg

「流木ってのは、こう、長年波に洗われてさ、腐って朽ちちゃった末の姿だって思ってるでしょ」

男は流木を磨きながら、我々スタッフに問いかけてくる。

「そうじゃないんですか?」

「見てみなよ、中は朽ちてないんだ」

 そう、さっきまで風化しきったかと思われていた流木が、彼の手により表面は滑らかになり、淡い艶すら発していた。

「人間だってそうじゃない? 外見は皺が増えて、肌にも艶がなくなって、髪もぺったんこで全体的にしおれてさ、もうダメなんじゃねぇのって人いるだろ?」

「はあ……」

「社会って波にもまれてさ、とがった邪魔な部分や弱い部分は全部とられてさ、角が取れちまうっつーのかな」

「ええ、人間も年をとると円くなるって言いますものね」

「最初は行儀のいい木材として、板や柱に加工された奴がさ、いずれお役御免で捨てられて、海や川に流れ着いたその先で朽ちる。けどな、流木って奴は芯の部分は残るんだよ。そいつらがたどり着いた先で、どんな風な姿形になっているか、こうして磨いたときに本来の姿形が見えてくるんだ」

IMG_5717.jpg

 寒空の下で、男は磨いた流木にニスを塗りながら、はにかんだ。
 そこには海岸で最初に見た様な朽ちた木の面影はなく、この世に唯一つの輝きを得たオブジェクトが、只ひたすら存在感を放っていた。

 最後に我々スタッフは、男に訊いた。

「あなたにとって流木とは?」

「死ぬまでこじらせ続けた、クソみてぇな、こだわりだな」





 とある流木作家もこう言ってますので、
 皆さん、クソみてぇなこだわりをもって、ワーゲンに死ぬまで乗り続けてください。



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