2018.
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その昔々、ファミコン全盛期には『無理ゲー』という、クリア不能な(と思われる)ゲームがありまして(ほかのハードでもありますが)、代表作としては『たけしの挑戦』やら『スペランカー』やらどうしていいのか解らない、異常に難易度が高い、という代物がございまして。まあクリアした人もいると思うので全くもって無理とは言い切れないのですが、クソゲーであることは間違いありません。
今日はまさに私自身がその無理ゲー状態。

ホイールシリンダーのカップを交換しようと、指で押し込んだら、指が抜けなくなった。マジで抜けない。
いわゆる沖縄の「指ハブ」という民芸品の理屈と同じ状態で、抜こうとすれば肉が食い込み、押せばさらに食い込むという、押しても引いても抜けない。(指ハブは抜こうとすれば締まりますが、逆に押せば抜けます)
おお、そうだ、こういうときは『油』で潤滑してやればスルッと抜けるもんだよ。
すかさず油を探す。指が抜けないのでその場から動けない…………。
状況的にはこの状態。

手の届く範囲の道具類…………。
油的なものがない……。
そして鳴り響く電話もとれず……。

どの道具を使うにしても痛そう。
あっ、このスマホで119番したらいいじゃん! ……ちょっと考えました。
でも、「そんなつまらないことで呼ばないでくださいよね。ホラ、そこのサンダーで切ればいいじゃないですか、指を」とか、笑顔で言われたら困る。
さて私は、ゴールデンウィーク中にこの無理ゲーをクリアできるのでしょうか?
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2018.
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変な音がする、変な振動がある。
そういう修理依頼ってのはまあまあ難儀します。ですから、どんなシチュエーションで発現するのかをよくお聞きします。
走っているのか、エンジンをかけただけなのか、クラッチを切ったときなのか、ブレーキをかけたときなのか、等々。
そんなわけで、今回はかなり細かくチェックしてきていただいての修理依頼でした。かなり特定された速度域でハンドルに振動が来る、と。まずはお試しということで試走。
でません。
全く発現しません。
いろんな運転の仕方をしてみますが、やっぱり再現しない。
これが困るんです。と、途方に暮れてると。

音が、でた! なんか後ろの方からゴロゴロいってる……
ハンドル揺れるじゃネェの? なんで後ろよ?
私らは変な話ですが、異常が見つかると安心します。
とりあえず仕事にはかかれますから。
やばい音出しながら、帰り着くまでの間に破損箇所を予想して、それに応じた運転をしてみて、破損箇所の絞り込みをしていきます。
でも、なんでハンドルに振動が来るのか……オーナーさんの証言と整合性とれないんだよなぁ。でもまずはこれを直さなきゃいけませんので。
な、わけで、作業は明日でございます。
2018.
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先日のイベント、オレンジバグの動画です
フェイスブックしてない人は見れないかもしれませんが、一応ご紹介。
オレンジバグ1オレンジバグ2ドローンってすごいわぁ。ほんまにすごい。

さて、夏も近づいて参りました。そろそろエアコンも始動している方もおられることでしょう。
どうっすか? ガス抜けて効かないなんて事ないですか?
通常はエアコンガスは抜けないものですが、配管が長いやら接続部の質の問題やらで徐々に漏れることはあります。
こと、輸入車などになると、コンプレッサーそのものからガスが漏れるなんてこともあります(当然だめです)
が、まあ夏の間だけでも効けばいい、というのが正直なところ。ちょい漏れくらいの人はガス補充でまあまあいけたりします。

そんなこんなで、店内には未だビートルズが。
いつの間にやら4月も月末を迎えてしまいました。
明日からGWという方も多いことでしょう。連休を大いに楽しんできてください。
なに? その微笑みが怪しいって?
いや、べつに――ほんとに――全然……うらやましくなんかないっすよ。
2018.
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あまりいい言葉ではございません。
警察に追われるとか、ヤクザに追われるとか、借金に追われるとか、締め切りに追われるとか、ストーカーに追われるとか。
しかし、異性に追われるというのはなんだかいいような気がしますし、ファンに追われるのも嬉しいし、実は仕事に追われるのも幸せなことかもなぁ、とか思ったり、思うようにしたりしてます。

発電機です。エンジンが安定しないので――という修理依頼。ゴールデンウィークで使うので急遽のお仕事。
なんか最近の発電機って、フルカバーで、フレームからしてスタイリッシュですね。

セオリー通りキャブの清掃です。発電機のキャブってものすごく小さいんですよ。原付より小さくて、当然ジェットの穴なんかも、バイク用のジェットリーマでも入らないくらい小さい。
こういうときに使うのが、荷札の針金だったりします。バイク屋の裏技です。
せめて新聞紙くらい敷いてやれよと、やってから気づきました。

はい、1000Wのホットガンも作動します。素直に治ってくれてホットしましたよっ! とぉ。
で、追われる話の続きですが、前職では『仕事に追われるのではなく、追いかけろ』と言われたのをよく思い出します。
確かに、追う方が勝ち組なような気はしてましたので、追われる我が身をそうして鼓舞してたんですが(前職は罪人のごとく年中追い回されているような仕事内容でした)一向に逆転する気配もなく、心が折れました。
でも、今になってみれば、追われるくらい仕事があるともいえるわけでして、そりゃあ幸福なことというか、求められているともいうことですから、感謝すべきなのだろうと思います。
もちろん追われてばかりで、後ろばかりに気をとられていては、いつか追い越され、取り残されかねない故、追いつかれないよう、または抜かれても追いかけられるだけの覇気がなくてはいけません。
ま、いずれにしても走り続けなきゃならんということで、世間が止まるゴールデンウィークも、ヘルムは走り続けます。
毎年のことだけど、ゴールデンウィークも変わらず営業します!
2018.
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24
マッドフラップ。 泥よけですね。
昔はまあ、道が悪かったから、砂や泥を掻いて、後方へ飛ばしてしまうのを防ぐ(後続車や通行車への配慮ね、同時に自分の車も汚れない)という意味合いがあったのですが、現代の乗用車のように、タイヤのトレッド面をボディがほとんど被って隠してしまうようなスタイルになると、部品単体としては認識されにくくなっています。(フェンダーの後端のちょっとした出っ張りに名残はあります)
トラックやダンプは言わずもがな、現代でもバリバリ現役ですよね。
そんなマッドフラップ。ワーゲンにはゴム製のロゴ入りのものが付いておりましたが、さすがに40年もたてば折れます。
そこでリプロ品。

おんやぁ? 「V」がない??
これは、実は

別体式です。
これって多分、「VW」のロゴを一発モノで成形してしまうのが版権に引っかかるからなんでしょうなぁ。
とまれ、組み立てるとちゃんとした「VW』のロゴになります故、ご安心を。

ホラね、ちゃんと「VW」になりますでしょ? なんか、毎度みるたび笑えます。

今回装着を試みたのは75年式。 付属のステイは基本67年までに対応するモノだから、加工が必要です。68年から74年までのモデルに至っては、もうちょい複雑なことをしなければなりませんが。

この様に、純正とは違う取り付け方になります。
バンパーステイに共締めするんですね。

取り付けるとこんな感じ。通常の視線上ではほぼ見えませんが、ふとした瞬間、フェンダーの裾から見えるマッドフラップは、例えるなら、殺陣のさなかの大立ち回りで長着の男の裾から見え隠れする越中褌のごとしチラリズムです。
もう少し扇情的な表現がよかったのかもしれませんが、昨今の事情柄セクハラと言われてはかないませんので、侠気出してみましたっ!
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空冷VWの中でもひときわラグジュアリーで、ジェントルな印象のカルマンギアでございますが、その流麗なボディラインを実現するが故、乗車人数を犠牲にして、ビートルが5名のところ、カルマンは4名となっております。
でも4人で出かけるなら大丈夫じゃん、ということでお客さん同士で乗ってみました。 ちなみに私は留守番(当然)
ちなみに乗車人員のスペックがまあまあ高い。質量的に、ですが。

まず二人。すでにこの時点で屈葬状態です。長く乗ると腸捻転か腸閉塞を起こしそうです。

和気藹々。なんやお前ら楽しそうやないけ。

外から見ると完全に2シーターのフォルムですわな。

このあと、ラーメン食いに行って、サーティワン食って帰ってきた。
くそ、楽しそうじゃねえか。
2018.
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21
今日は夏のような暑さ、とも言われてますが、過ごしやすいっちゃあ過ごしやすい一日でございました。
ここ最近というか十数年は、この時期にこういう日があるのが結構普通になってまして。
えーと以前にも夏は5月からといったことを申しました。つまり、5、6、7月が夏で、以下秋、冬、春、と振り分けられております。
私たちの感覚では6月から8月までが夏、という感じですよね。
これは旧暦の1月、つまり睦月がだいたい2月にあったことで、ずれているのです。
いわゆる旧正月ってのが2月のアタマにありますよね。ですからほぼほぼ一ヶ月ずれて、睦月ってのは今の2月を指すわけです。
そうすると、如月が3月、弥生は4月ってことでして、春の終わりなんですな。だから暑くて当たり前、と。
毎度毎度混乱するような話ですが、そういうことです。

さて昨日のヘッドライト。結局解決策としては、三つ爪のH4タイプを使用するシールドに交換が、現実的な対応です。
そのためには、シールド本体と、レシーバーというマウントが必要になります。完全換装するには少々お金がかかりますが、仕方がありません。レシーバーはいわゆるシールドビームを使っていた時代の名残で、74年くらいから採用されたラウンドタイプのバルブ方式よりも古い形式ですが、これが付いている年式の方が汎用性が高いというのは皮肉なものです。
VHSとベータみたいなものですな。

ちょっと嬉しくて撮影してしまった。
ばっちり光度が出てますね。26300カンデラ。 やっぱりレフの状態のいいものを使うと違います。バルブメーカーや車両側の問題もあるかとは思いますが、ちゃんとしたものなら、けして現代車に引けをとらないほどの明るさは出る、という見本のような話です。本気でヘッドライトを明るくしたいという方は、ご相談ください。

あと、ちょっとした注意というか、こういうこともあるんだよという話。
これ、新品のドラムなんですが、タップ切ってます。ネジ山の修正ですね。

たまに、ロットによるのかもしれませんが、もともと切ってるネジ山がいい加減な時があります。そういうときはホイールボルトが奥まで入らないことがあるんですよ。それを強引にねじ込むと、抜けなくなります。
これは製品状態でドラムを貫通して、きれいにタップが切れてないからなんです。奥の方がちゃんとネジ山が出来てないから、ボルトを潰す、潰れたボルトを抜こうとするとまともなネジ山も潰すという寸法です。このワンアクションだけで新品ドラムがジ・エンドします。
メードインジャーマニーでもこのクオリティ。
買ってそのままつけられない部品がある。それがインポートパーツスタイル!
信じてはいけない
2018.
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20
と、いうタイトルだけで超有名なアニメ作品を思い出してしまうのは、日本人だなぁ、とおもいます(そうでもないですか?)
ヘッドライトの光軸を調整しようと、リムを外すと、ビキニがポロリ……だったらいいんですが、レンズがポロリしました。

いや、そういえば昔は『芸能人水泳大会』なんてもんが公然と放映されてまして、そんなかで水中騎馬戦でビキニを剥がれる『ポロリ専門のキャスト』ってのがいてですね、水泳大開に華を添えていたわけですよ。
しかしどういうわけか、性も解放され切った平成30年という未来では、ドラマの濡れ場すらチ○○が映らなくなってしまいまして、エロは激しさを増している表側では、セクハラには超敏感な社会が出来上がってしまいました。
まーいびつだわ。
セクハラセクハラとあんまり言い過ぎると、逆に女性が社会に進出しにくくなるというのがわからんのだろうか?

レンズがポロリしたのは、そもそもヒビが入っていたのが原因で、結局真っ二つに割れてました。
まあ、あんまないことですけど、ガラスレンズを使っていた時代ならではですよね。

当然交換になるわけですが、ついでにリフレクターはこういう状態です。
半分曇っていますよね。これは表面に施されているメッキコーティングが剥がれかかっているためで、こうなるとライトは本来の明るさを発揮できません。なので、どっちにしても交換の運命にはあったかと言うことで。
ゴールデンウィーク前に、車検のラッシュです。
昨日は体力の限界で倒れましたが、一晩寝たら復活です。
がんばりましょう。
2018.
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18
メキシコシティ郊外に住むアレハンドル・オルタは働き者の男で、常日頃から中心的な役割をする人物であった。
ところがある日、彼は仕事中に突然息を引き取った。不眠不休ともいえるほど常に動き続ける彼の身体は酷使され、遂にその寿命を迎えたのである。
仲間達は悲しんだ。起業してから20年、ずっと一緒に働いてきたのだから当然、その死は重かった。
しかし、問題は彼の亡骸をどう回収するかであった。

というわけで、20年間頑張った、アレハンドル・オルタさんは逝去なされましたが、インジェクションであるメキビーは、非常にオルタが交換しにくいです。以前にも記事にしましたが、まずDIYじゃ出来ないと思います。
このくらい外さないとまずとれないと思ってください。
はっきりいうと、エンジン下ろして作業した方が楽かもしれません。私は車載でやりますが。

それほど頻繁に壊れるものではありませんが、消耗部品であることは間違いありません。
幸い、この車のオルタは新車時から20年保ちましたんで、長寿に入る部類でしょうが、中には五年くらいで死んだケースもあります。
そのせいで、プーリーは固着してぬけんわ、おまけに裏のファンまで道連れで逝ってました。

クーリングファンのハブが完全に丸穴になってしまってます。まあ、タイミングよかったっちゃあ、よかったのだろうけど。
90年代のメキビーもそろそろ、20年ですから、あちこちきますよね。
60年~40年選手のドイツ人は言わずもがなですが。
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17
2018.
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15
明日はイベントでございますが、朝方までどうやら雨が続くようです。
なんか、イベントの前って、よく雨降るような気がする。別に関係ないんだろうけど、雨の中準備してる事が多いなぁ、と思います。

とりあえず、昼からはやむらしいので、みなさん少し足を伸ばしてきてください。
はい、例によって例のごとく、私寝れません。今から家に帰ります。四時間後には出発(の予定)
ビートラックは今回も出場見送り。秋のイベントにはデビューしたいなぁ。
てなわけで、ヘルムは明日(15日の日曜日)は休業しておりますゆえ、ご用の方は下記までご連絡ください。
それでは、一時帰宅します!
2018.
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13
「おっ、お前、ボルトさんをナメるとひどい目に遭うぞ!」
「ふっ……そんな捨て台詞、聞き飽きたわ」

「くそったれ。やれるもんならやってみやがれ、後で吠え面かくなよ!」
そして俺は奴の忠告を無視し、渾身の一撃をボルトにたたき込んだ……。
その瞬間、ぐにゃりと世界がゆがんだように感じられた。

「え?」
俺の顔面から血の気が引いた。俺はもう、すでにボルトをナメていた。
――――ええ、そんなわけで、固着してアホみたいに固いパッドピンのボルトがナメました。
一応言い訳させてください。
渾身の一撃と言いましたが、普通のパワーでやりました。
この手の埋め込み型のボルトのナメはリカバリーが非常に大変です。出来ないことはない、という話ですので、出来ればやりたくはないですが、抜けねばブレーキパッドが交換できませんのでヤルしかないです。
はっきり申しますと、ハーレーのボルトは質が悪すぎます。トルクをかけ過ぎると簡単に噛みこむ、かといって緩めに締めると振動で抜ける。これ、どうなの?

まず、折れたボルトの頭に穴を開けます。エキストラクターという器具を突っ込むための穴です。なんか器具を突っ込むとかエロいですね。
――じゃなくて、ドリル入れてみて何これって思いました。
アルミみたいにサクサク掘れるんですよ。まさかと思って磁石近づけてしまったくらい。むちゃくちゃ柔らかいボルトなんじゃないのか?

五ミリの穴を中心に開けて、エキストラクターで回すんですが、その前に火であぶってみます。叩いてもみました。

だが、回らない。びくともしない。エキストラクターが折れそう。

仕方がないのでドリルを7ミリまでステップさせ、ボルトピッチを切ってしまわないギリギリで、シャフトだけを抜きます(ボルト部分の径が8.5ミリでパッドピン部分が7ミリなのね)これでパッドは外れました。
しかしそれでも、薄々になってるにもかかわらず回るそぶりすらない。

結局超薄状態にまで追い込んだボルトの残りを、タガネで突き崩してゆき、最終はタップでネジを切り直しました。
もちろん、新品のパッドピンがそのまま入りますよ。

今回はキャリパーのように外れる部品だったからよかったですが、まあボルト抜きの手段をすべて尽くした作業といえます。これが最上級でしょう。
ちなみにエアクリーナーとキャブをつないでるボルトも余裕で噛みこんでて、こっちもしっかりナメました。
えー私が下手くそなのか、えー、そうなの?
ハーレー・ボルトさんデリケートすぎるわ。
今回気づいたのは、ボルトが異常に柔らかいということ。だから締めたときにボルトが伸びて、ナット側に噛みこむ。
で、抜けなくなるという。ボルトというものは、締めたときにどんなものでもある程度伸びます。トルクが抜けた後、元に戻ろうとする力が嵌合力となって、天然の緩み止めになります。従って、相手側の素材にもよるのですが、ボルトそれぞれには締め付ける適度なトルクというものがあります。
ただ、私は未だかつて、こんなに柔らかいボルトをみたことがありません。何度も言うようですが、そのくらいのものでした。ホームセンターのボルトでももうちょっと固い。
もしかして固いボルト使うと振動で折れたり、緩んだりするからハーレーはこんなボルト使うんだろうか?
空冷VWのボルトは滅多なことでは折れたり、ナメたりしません。めちゃくちゃ固いです。ですが、ちゃんと靱性(じんせい)もある、固くて粘る鉄で作られています。空冷VWの素材は理想的だと思います。だから今回のような作業をするとなると、かなり苦労します。
てなわけでー。
2018.
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12

いわゆるビートル、1303というモデルはカーブドウィンドウという、湾曲した風防が付いています。フロントガラスのことですね。
1303というのは空冷ビートルの歴史の中で、最後にリリースされたモデルでして、最終形態と言っても差し支えないかと思います。
つまりフォルクスワーゲンという会社が出した『答え』であり、正常進化の果て、この形に落ち着いたといってもいいでしょう。
当時はハイスペックで非常に人気があったのですが、いかんせん高価でした。逆に今ではビンテージと呼ばれる6ボルトのビートルなどは見向きもされない――というほどではないとしても、けして人気があるというものではなかったそうです。
そういう時代があって、今があります。
少し前はビンテージが懐古的趣味であった部分はあるかと思います。
今は少し違いますね。
相変わらず最新型の車には、最新のデザインラインが導入されておりますが、同時にノスタルジックなデザインラインも積極的に採用する節があります。長い長い工業製品の歴史の中で、新旧を入れ替えながら進んできたデザインですが、ここに来て材料が出そろってしまった、という気もします。
ビンテージと呼ばれる、旧製品が現役であった時代のデザインは、一つの様式美となって、固定化されたのではないかという気はします。これが、デザインが繰り返すという現象となって現れているように思います。
ファッションにしても同じですが、旧来のスタイルを継承しながら、アレンジを施すという手法で、毎年リファインされてますが、それはいわゆる様式美として固化しているから出来ることであると思います。
何のことを言っているのかわからないかもしれませんが、つまりですね。
新しいデザインが生まれにくくなっている、ということです。
これは創作物の宿命として当然のことなんですが。
人が作るものは時代を経るごとに広がりは見せても、旧来のオマージュに陥りやすくなってしまうということです。
新しいものが次から次へと求められ、生み出される世界で、次の『新しい』を見つけることは非常に困難だなという気はします。
そのように考えると、さて、私たちはこれ以上に新しいものを求める必要があるのだろうか? という疑問もわいてきます。
時代もありますが、かつて空冷ビートルは約30年にわたりマイナーチェンジを続けて、毎年改良を重ねていました。
見た目はほとんど変わらないけど、細部をどんどんと変更して時代に追随してきたのです。(中には改悪と思われるようなマイチェンもありますが)
もしも、同一機種で、マイナーチェンジをくり返していったなら、どんな製品になっただろう、と思うことはあります。
製図を引き直すのではなく、技術や素材の進展とともに、そのものがリファインされていったなら、きっと、もっと、人は可能性を追求できたのではないかと思うことはあります。
考えたとて栓のないことではありますが。
もちろん、新しいものも素晴らしいですけどね!
2018.
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11

えーと、告知が行き渡っていなかったらアレなので、再度お知らせしておきます。
来る4月15日 和歌山県 和歌山市 和歌浦南 片男波海水浴場駐車場にて、マシンヘッドさん主催で、空冷VWイベントが開催されます。
なかなか、関西は春のイベントが定着せず、Bug in MIKIが終了してからは寂しい時期が続いておりました。
秋は恒例のVW・Autumunで山に、春はOrange Bugで海に! みたいに定着してくれると頼もしいです。
ブースの数も多いらしく、盛り上がりが期待されています!
が、ちょっと天候がやばいんですよねぇ・・・

晴れるように祈りましょう。 いや、蛙はだめか。

今日はやる気が中抜けした。
なんか、のりが悪い。
ふとラジオで「今日は人類が初めて宇宙に行った日」とききました。
ユーリ・ガガーリン大佐でございますな。
1961年のことだそうです。 いまから57年前。
ええと、まだ空冷VWが6ボルトで走っていた時代ですな。
私はアメリカの月面着陸は上手くいきすぎて、懐疑的に見たい派(あえて懐疑派とはいいません)なのですが、ガガ様の有人飛行は実にロマンを感じます。
何より孤独、ただ単に宇宙に打ち上げて周回して還ってくるだけ。ともすれば弾道ミサイルに人を詰め込んで飛ばした位のものです。実際ガガ様は160センチにも満たない短躯だったといいますから、そのくらい限界まで船室を小さく作ったということです。
着陸船というか、再突入カプセルはボールのような形で、実際のところ着陸は考慮に入れてなかったようで、7000メートル上空で射出座席によるベイルアウトを行い、パラシュートで帰着したそうです。
打ち上げからわずか108分、つまり2時間弱の宇宙旅行だったそうですが、我々が知る歴史の中では地球から外に出た最初の人であり、客観的に、地球が球体の物体であることを目視した最初の人といえるでしょう。
この、人類初の有人宇宙飛行という、世界をあげて祭りに興じるべき出来事ではあったのですが、当時は冷戦下まっただ中で、秘匿することも多く、けして今のように世界もソ連国土も裕福ではなかった。そしてその内実は、半分くらいは帰還できないかもしれないという恐れの中で行われ、かなりギリギリに切り詰められたものだった。
アメリカが月にゆく頃は半ばエンタメ化されていたような節もあり、それ故ねつ造疑惑なども持ち上がるのですが、このガガーリンの初飛行の寂寥(せきりょう)感たるや。
蛇足ですが。
この事件のオマージュとも言うべきアニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」という作品があります。なんと1987年制作という、マジかっ! のクォリティの伝説的アニメ、ご興味があられましたら是非観ていただきたい。
2018.
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08
最近トレンドなLEDヘッドライト。

ノーマルがあまりに暗いので検討。

3500カンデラ・・・車検通過不能。絶対無理。

LEDにしてみましょうか! っちゅーことで、割と安い、バックスペースをとらないタイプのLEDを購入してみました。
さてどれだけ実力があるのか? 一応6000ルーメンと書いていましたが、この手のものは全く当てになりません。

いざヘッドライトを開けてみると、ああ、ラウンドタイプのバルブですやん! H4タイプのバルブは付きません!
これ67以降、からつかわれたリムとヘッドライトASSYが一体化してるタイプで、リフレクターが別体式、密閉されてないのでリフレクターがよく傷んで、ヘッドライトの光量が出ないモノが多いんです。
この手のヘッドライトが付いてる車体にH4のバルブをつける場合は、ヘッドライトレシーバーとリムとヘッドライトレンズの交換が必要となります。なのでとりあえず全部交換前提で、せっかくなので三種類を比較してみようと思います。
まず

シールドビーム。 レンズそのものがバルブになっている、古いタイプの電球ですね。

エンジン回転数上げない状態で、9600カンデラ。 まあ、普通というか、合格点15000カンデラですから、吹かせばなんとかなるかな~って感じ。
つぎ

H4のハロゲンバルブ。 IPFのバルブキットです。 こちらはビートルハウスさんで扱ってるリーズナブルなモノです。スモールランプ付きで助かります。

おお、さすがハロゲン。 13800カンデラ。 まあ及第点ですね。じゃないと困りますが。
つぎ

LEDはしばしばバックスペースに収まる機器の部分が問題になる可能性があります。
このくらいならビートルのオカマに収まりました。

期待のLED! おおまぶしいぜぇえ! これはすごいんじゃないのか!
と。
え?

10700カンデラ……。
ハロゲンより暗いっす。
なんとなく想像してたけど。ちなみにLEDなんで、吹かしたところで明るくはなりません。
そして光軸もむちゃくちゃ外れてる。同じ条件でバルブだけ変えて計測してるのに、LEDをつけるとあらぬ方向にヘッドライトが向きます。そもそも作りがだめなんだな。
使えねぇ。
使えねぇぜ。
使わねぇよっ!
そんな訳で。
安いからだめだったのか、相性が悪いのかまではわかりません。
おそらく、何万円かするくらいのモノなら、ちゃんと光軸もでて、車検基準も満たすんでしょう。
どうりで、アホみたいに眩しいヘッドライトの対向車がいるわけです。
ありゃあ、安物のLEDバルブを自分でつけて光軸調整してないんだろうな。
安物は車検のないようなバイクとかに使っておくのが吉かと。
安物でもLEDですからノーマルよりも消費電力は低いだろうから、その点くらいがメリットと割り切ることでしょうな。
そんなわけで、今日の格言だ!
「安物買いの銭失い」私は先人の知恵を体現したのだ!
みんなも是非やってみてくれ!
2018.
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07
タイプ2の後ろ足の裏から油が漏れるってんで、最初はホイールシリンダーだろ~って思ってたんですが。
足の匂いを嗅いでみると、ミッションオイル臭い。故障診断は五感を使うのですよ。

とりあえず、ハブを開いてみたら、エンドベアリングが破損して、オイルシールを巻き込んでたんですね。
――――っと・・・あ、これはまずい!
オーナーさんからは特に走り心地がどうだとか言われてなかったんですよ。もしかして結構このまま走ってたんじゃあ・・・・・・

タイプ2のリアアクスルエンドには、リダクションギアという、倍力ギアが付いています。
回転数をトルクに変えるための減速ギアです。
これは元々タイプ2という車が、運搬目的に作られた車なので、重量物を運ぶために速度を犠牲にして底力を上げてるんですね。
なので、タイプ2を速く走らせようとしても、これが枷になりますので、ストレートアクスルという改造を施します。その際必ず車高が下がってしまいますので、同時に前も落とさないといけないので、「ストレートアクスル化」というのは非常にお金のかかる作業になります。そして前々回の記事でも申しましたとおり、通常車高を下げるというのはデメリットしかありません。
今回は割愛しますが、もともとリリースされた状態から、大きく形を変えるというのは、バランスを崩すという行為であるということは覚えておいていただきたい。
そして、車高を落とすというのは男のロマンでもあるので、リスクは背負ってもやらねばならんことはあるのです。

リダクションBOXを分解します。滅多にやりませんが、なかなかの重労働でございますよ。

うおぉ、上のベアリングも逝ってる! これは全替えですなぁ。

ドライブエンドのシャフトを外すのは裏側からなんですが、ここに鉄のプレートが圧入されていて、こいつ、破壊しないととれません。今回は車載状態での作業ですので、溶接してタブを取り付けるとかそういうことできませんで、穴開けてぐりぐりパコッ! ですわ。腹筋鍛えられます。そう簡単にはとれませんよ。

ドライブシャフトのケースを抜くのが嫌だったので、SST! ボールベアリング抜き工具です。
この工具、もう売ってないんですよね。ボールベアリング使ってる車なんてなくなったからかなぁ?

新しいベアリングはシールドタイプでした。まあ、いいのかな?

こういう構造になっています(F4さんのHPより拝借) ちなみにベアリング全部換えると部品代だけでも結構なお値段になります。

元の状態に組んでゆきます。 掃除もしつつ。

バックプレートも洗って、一応塗装。
とりあえずここまで来たら、作業の山は越えました。
今日も疲れたよ、パトラッシュ……
2018.
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06

リアの車軸(ドライブシャフト)ってのは、しばしば問題が起きることがありまして、この様に赤さびがでている人は要注意です。

これがドライブシャフトに刻まれているスプラインなのですが、この溝とドラム側の溝がかみ合ってナットで固定されてます。
ご存じのように、ドラムにはホイール、タイヤという重量物が高速で回転してますから、このドライブシャフトというのは非常に丈夫なモノで、硬度も高いです。そしてその接合部であるスプラインというのはガタついてはいけません。

ガタがでるということは、金属が痩せているということです。硬度の関係上ドラム側の方が絶対に減りやすいですが、それでもはやはりシャフト側も無傷というわけには生きません。新品のドラムを入れても、ナットを締め込んでも、走行中の振動などで多少のガタはでてしまいます。
そうして徐々に減ってゆき、ガタが大きくなるとホイールを動かしてもわかるくらいの振幅になり、走行中もキュッキュッとかゴロゴロとかいう音が出ます。
そして、一番上の写真のような錆がシャフトに浮き上がります。これはナットやドラムから出た微量の錆です。それだけ減ってるということですね。

まともなドラムにつけ直すと、どれだけガタがあったかよくわかります。
新年度も始まり、新入生も入ってくるこの時期。
古参の我々大人も、たまにゃあ自分の足下を見て初心に還ってみるのもよいでしょう。
2018.
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05
本日は仕事の話です。
トーションバーグロメットというのは、トーションバーの外側を支えているラバーパーツでして、長く乗っておりますとこのゴムが変形し、トーションバーが斜めになってキャンバーが狂ってくるんですね。おまけにギシギシとかガシガシとか走っているだけで音がし出します。
で、今回のクランケはタイプ3です。

IRSタイプの場合はこの様に外します。

付いてた古いグロメット。偏心してますねぇ。 限界です。
ちなみにこれ、ウレタン製なんで、一度は変えてますが、ウレタン製の社外品が「よかった」という記憶は一度もありません。大抵だめな印象が強いです。

これ、外側だけ交換ならたいしたことないんですよ。作業的には。
問題は内側です。
ボディ側面に丸穴があるでしょう。アレはこの時のためにあるんです。
板金などを繰り返している車は、このメンテナンスホールがなくなっているもの(埋めちゃってしまってない)ものもあります。そうなったらフェンダー外すしかないです。もっとも、タイプ3でも、フェンダーのネジを数本外して浮かさないととれませんけどね。
ちなみに、赤いテープは角度のマーキングです。元の車高がわからなくならないためにつけます。

トーションバーカバーを抜くのは、ものすごい大変です。心臓に悪いです。そして危険。
抜く順序間違えたら地獄を見ますので、じぶんでやるひとは、おとうさんおかあさんや、おとなのひとといっしょにやってね。

小休止。
ちなみに車高を調整するときも似たような作業になります。トーションカバーは抜く必要がありませんが、やっぱり大変です。
車高は落とすとハの字になります。いわゆるネガキャン、ネガティブキャンペーンです。
極端なことを言うと、タイヤのトレッド面の内側ばかりに過重がかかり、本来のタイヤの性能が生かせないのと、タイヤの寿命を縮める事になります。いい事なんて一つもありません――――が、かっこいいから、まあやりますよねぇ。仕方ない。

今回はマイボウズさんで純正のグロメットが手に入りました! ので、迷わず使用。

変な角度の取り方してると思うでしょう? こっちの方が断然わかりやすいんですよ。

完成。
夜になっちまった、つかれたよ。
2018.
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04
えーと、詳細は省きますが、二条城まで見に行ってきました。
コンコルソ・デレガンツァ京都2018いわゆる、かなり希少なヴィンテージカーの展示です。まず博物館などでは見ることができない個体だろうというのはわかりますが、実は私全然こちらにはあかるくありません。
アルファロメオとかアストンマーチンとか、ランチアとか、まず私には無縁なくるまばかりです。
まあ、お高いんだろうなとは思います、というか値段つけられんのか、という感じ。

二条城廷内という格式の高い会場でして。会場になった二の丸御殿中庭というのは、普段は立ち入れない場所というのもあっていきました。

こういう最新のものも展示されてましたけど。

これが今回の目玉だそうです。『ラストオブラインC52ビンテージエディション』はるばるイタリアのアルファロメオ博物館から来たそうです。もう、すげー形してんの。

この車いいなぁ、かっこいい。

さらに驚愕だったのがこれ。 サカナやん!
これめちゃくちゃかっこよかった!
車に関しての詳細はいずれも省きますんで、興味ある人は自分で調べてください。
こういうの見ると、やっぱり車って、本質は道具じゃないよなって思います。黎明期からすでにこの外連味ですからね。
いわゆる甲冑という戦争の道具が、やがて美術品になったのとは違い、車はほぼ誕生したときから美術品だった、といってもいいかと。それが時を経るごとに道具となり、庶民の足となり、美術的要素は逓減していったと考える方が正しいのかもしれません。
本当は、トラックもバスも作りたくなかった。
今は亡きエンジニアの声は、そんな風にも聞こえてくるのです。

そんな京都ぶらりの一日、遅い私のランチ。 庶民ですから。

先斗町に足を向け、小腹が空いたのでおやつ。 ラムチョップ&生ハム

八坂神社、二年坂、とまるで観光客みたいなルートをたどっている事に気づいて、清水はスルー。
歩きづめで喉が渇いたので地ビール。

ほろ酔いで、夜の京都を後にする。
まあ、なんとも外国人の多いこと。平日だろうがお構いなしの混雑でしたが、古いものに触れ、いろいろな思いにはせながら一人歩きもいいものです。
合理的を推し進めた結果、私たちの世界は確かに豊かにはなりましたが――――、などと改めて言うのも馬鹿らしいんですが、私たちはこういうものに触れられる世界に生きている、ということはちょっと振り返って見てもいいんじゃないかなと。
きっとこれらの車を作った人たちは、楽しかったんだろうなぁ。
2018.
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01

なんで、4月1日が嘘ついていい日だとか言われてるのかって話は、多分去年した。
なので、今日は、嘘をテーマにした小話を。
「邂逅」 僕とジョニーはずっと同じ町で暮らしてきた。
そこはとんでもない田舎町で、僕らにとっては大統領選挙やポップスターの死去なんかより、童貞をいかにして捨てるのかが重要な事だった。
そんな無邪気な僕らは、いつもふざけあっては、草原の果ての高台まで競い合い走った。
はるか遠くにいつもと変わらないロッキー山脈が見えた。その巨大で偉大な山裾に広がるグレートプレーンズ、そこが僕たちのすべてだった。
アメリカ合衆国、カンザス州フォード郡ドッジシティ。かつて悪名かつ名高い拳銃使い達が闊歩した街であり、オールドウェストを標榜する代表的な街だ。今でも西部劇の世界を垣間見たいという、物好きな観光客が多いのも確かだけど、僕らにとっちゃただの田舎町にすぎない。
退屈で、平和で、美しい街だ。
幼馴染のメアリーと僕らはいつも仲が良かった。
互いに僕らは牽制しあっていた。僕とジョニーの双方ともが、メアリーのことが好きで、そのことをお互いがよく知っていた。だが、そこは男同士の友情という奴だろうか、単に意気地なしだっただけかもしれないけども、僕もジョニーも彼女をのことを柵の向こうから見つめるだけだった。
メアリーは僕らを見つけると、いつも太陽のような微笑をくれた。あの時の僕らには未来なんて解らなかったけど、ただそれだけですべてが救われるような気がしてたんだ。
身体も立派になり成長した僕らは、やがて生まれ育ったこの地を離れることになった。残念ながら僕とジョニー、そのどちらともメアリーへの恋が実ることはなかった。いずこかの段階から、立場の違いってのを理解していた僕らにそれほどの驚きはなかった。ほどなくしてメアリーは僕たちの知らない男との間に子供を身ごもって、母になった。
永遠に続くかと思われていた時間は、離別という言葉で動き出す。この退屈な田舎町では時間の流れが止まっているかのように遅かった。そして外に出て、いかに僕たちが世間を知らなかったのかを思い知らされた。
僕とジョニーは同じ時期に生まれ同じように成長したのだけど、ジョニーの旅立ちの日の方が少し早かった。僕はジョニーに遅れること三か月、メアリーを残してカンザスを出立した。別れの前日、僕は最後にメアリーと話したいと、あの草原へと出向いたけど、やっぱり彼女は現れなかった。もう彼女は草原で無邪気に駆け回る少女ではなかったのだ。
僕は西へと、ジョニーは東へ行ったらしい。
おそらく、もう会うことはないだろうという予感は僕にもあった。もしも会えたなら奇跡のような話だよ、とジョニーは鼻を鳴らして笑っていた。
嘘のない誠実な彼の態度が僕は好きだった。彼がメアリーを好いているということを打ち明けてくれなければ、きっと僕は今も心の中にしまっていたままだった。
かなわぬ恋だと解っているのに、恋い焦がれるなんて馬鹿げてるって、僕は覚めたふりをして口笛を吹いていただろう。グレートプレーンズで生まれ育った僕らに、それほど明るい未来が保障されていないことだって、いい年になればわかる。自分たちが何をなすべきで、何者なのかもわかってしまう日が来るのに。
でも、そんな灰色に縁どられた未来が待っているにもかかわらず、ジョニーはいつも笑顔を絶やさなかった。駆けっこではいつも置いていかれたけど、いつもその先で僕を待っていてくれた。あの大きな木のある丘の上で。
いつまでもそんな訳にはいかないんだって、夕日の向こう側を見つめながら毎回、口癖のように言っていた。だから今を精一杯生きるしかないんだって。嘘偽りのない今を精一杯生きることが僕たちに許された、ただ一つの自由なんだって。
あれから一年。僕は遠く離れた日本にいた。祖国とは違って、地平線すら見えない小さな島国だ。こんな小さな国だけど仕事はたくさんある。僕らのような田舎者が多く求められているんだ、不思議だろう?
日本人はとても勤勉で、おとなしくて、平和的だ。そして日本の町並みは僕たちの育ったドッヂシティにはないものばかりで、とても刺激的でもある。
もっとも、僕らがその恩恵にあずかれることはほとんどないのだけどね。
今日は日本に来て、初めて一般家庭に招かれた。いつもは業者のあっせんで、大きな店舗に行くことが多いのだけど。
僕を招いてくれたサラリーマンの佐藤さんは夫婦と子供二人の四人家族で、それほど広くはないけれど一軒家で悠々自適に暮らしている。今日は昔なじみの友人を呼んで自宅の庭でバーベキューをやるんだって。新築祝いだそうだ。
黄昏時にかけて友人たちが食材を持ち寄って集まってくる。
僕の故郷アメリカはバーベキューの本場で、家の主は肉がうまく焼けないと一人前と認めてもらえない、なんて話もあるくらいだ。ここ日本でも焼き手はやはり父親か、男兄弟が担当するようだけど、アメリカと違うのは、彼らは肉の焼き方よりも炭に火をうまく点けられるかどうか、というところにバーベキューの習熟度を据えている。
なんで炭にこだわるのかって? 日本じゃアメリカのように大型の野外オーブンを使って豪快に肉を焼くという文化はなくて、日本でバーベキューというともっぱら炭火焼肉のことを指すからだ。ま、庭の広さとか物置のことを考えると仕方ないよね。
「おう佐藤、今日は極上の黒毛和牛持って来たぜ!」
「うっひょ、たすかるー。コスパ最強の米国産だけど、やっぱせっかくの炭火焼きだからなぁ、サンキュー鈴木」
「うっおおお、霜降りじゃねぇか! 鈴木奮発したなぁ」
「あったりめぇだ米国産の安物と一緒にすんなよ、国産A5クラスだぜ。高かったんだから、味わって食えよ!」
それを聞いて、ちょっと僕は複雑な気持ちだけど、仕方ないよね。狭い国土では大勢の牛を飼って薄利多売はできない。だから日本人は牛をとても大事に育てる。牛肉の価値を上げて、単価で利益を得るってわけ。最近じゃ見事にジャパンビーフとしてブランディングに成功したよね。
まあ、それはそれで、同じ牛肉と――――ちらと僕は鈴木さんの傍らに視線を巡らせる。するとどうだ、そこには驚くべき姿があった。
ジョ、ジョニー!? ジョニーじゃないか、あれは!
なんと、そこにはジョニーがいた。奇跡だ、これは。まさかまた会えるなんて!
(おおいジョニー! 僕だよ、ホラ覚えているかい? あのドッヂシティで一緒だった……)
僕は感激のあまりそれ以上言葉が出なかった。いや、上手く喋れたかどうかもわからない)
だが、ジョニーから返ってきた言葉は、一撃で僕を打ちのめした。
(――誰だよ、おまえ……しらねぇな)
ずいぶん印象が変わっちゃった感じがするけど、きっとこの一年でいろんなことがあったんだろう。なんか見た目からして体調もよくなさそうな感じがする。
(君が僕を忘れるなんてありえない。僕だって一目見ただけで君だと気付いた!)
僕の昂揚に対してジョニーはあまりに冷淡だった。
(なんだよ、おまえ……アメリカ人かよ。ワタシエイゴワカリマセーン? オレは日本生まれの日本育ちだよ、お前なんか知らねぇよ)
嘘だ――――僕の言葉を理解してるじゃないか……。
(ねぇっ、一緒に草原を駆けてあの大きな木のふもとで、夕日を眺めただろ、忘れたのかい?)
(あ? なんの話してんだよ。鬱陶しい奴だな)
(ほら、メアリー可愛かったよな)
(メア……っぶるぶるぶる、しらねぇ! メアリーなんて女は知らねぇ)
(嘘だ! 何の冗談だよ!)
(嘘じゃねぇよ、ここ見てみろ!)
僕は傍らに置いてある彼の身分証明書を覗き見る。たしかに日本生まれだと書いてある。彼を連れてきた鈴木さんもそう言っていた……。
(まさか、本当に……?)
炭火から発せられる遠赤外線がじりじりと僕の身を焦がす。
僕は寂しさのあまりおかしくなってしまったのだろうか。だとしたら随分失礼なことを言ってしまった。じとりと脂汗が身を伝う。
ふと彼を見ると、同じように全身から汗を流していた。いや、ただ熱かっただけかもしれない。
(す、みません。どうやら僕の勘違いだったみたいです……)
(ああ……いいんだよ、気にするな。に、しても熱いな……)
(ええ、炭火って熱いですね……あの、日本の牛って大切に育てられているんでしょう?)
(ああ、日本の牛はさ、脂がのるようにいいものを食わせて太らせるんだ、霜降り肉はサシを多くすりゃ喜ばれるからなぁ。でもな、大事にされてるってのはちょっと違うんだ。牛舎に詰めて動けなくしてよ、病気の予防のために薬漬けよ。出荷される時は歩けねぇわ目は見えねぇわ、ちょっとした糖尿病患者よ。たまんねぇよな)
(えっ! そうなんですか? じゃあ……君も……?)
(――噂で聞いた話だ……オレはさ、オレのはさ、インジェクションっつってな、人造霜降りなんだよ。それはそれでたまらねぇんだけどさ、針のむしろだぜ?)
(それじゃ……え? じゃあ、君は一体……」
(なあ……メアリーは俺のことなんか言ってたか?)
(――――! ジョ、ジョニー? やっぱり君はジョニーなんだね……っあああ!」
(ふっ……あばよ、兄弟)
そう一言言い残し、僕を置いて、ジョニーはいってしまった。佐藤さんの口腔へと消えてしまった。
「なあ鈴木、言いにくいんだけどよ……これホントに国産霜降り牛なのか? 柔らけぇっちゃあ、柔らけぇけど、俺の用意した米国産牛と大して味変わらねぇ気がするぞ?」
当然だ、それはジョニーなんだから。正真正銘、生まれた時から僕と一緒にグレートプレーンズを駆けまわっていたジョニーなんだから。
ともにメアリーに恋をした僕らが、こんな風に運命を分かつことになるとは考えもしなかった。
だけど――――
「あれ、本当だ……まさか今時偽装肉かよ……どうりで安いとは思ったんだが」
「はぁ? 安かったのかよ!」
どれほど見た目が変わっても、雄大かつ偉大なるロッキー山脈のたもと、広大なる大地で培われた僕らの魂はごまかせない。
ああジョニー。やっぱり僕と同じなんだね。変わっていないんだ。今はそのことが僕は一番うれしいよ。さあ、またあの日のように一緒になろう。
了
アンガスの赤肉が食いたいです。
誰かごちそうしてください。